こちらは兵庫県立洲本高校 公式 同窓会ホームページです。

ご挨拶 学校長 越田 佳孝

2017年04月17日

 同窓会の皆様には、日頃から本校の教育活動に、多大なるご理解とご支援を賜っておりますことに、厚く御礼申し上げます。新しい年度が始まりました。全日制では8人の方(再任用・引き続きの臨時的任用者含まず)、定時制では2人の方(同)を迎えました。新年度のはじめ、洲本高校のミッションとビジョンについて、全日制・定時制ともに教職員に話をしました。それぞれのホームページに掲載しています。

1 教育のミッション(課題)
 私たちの課せられた教育のミッション(現在の教育課題)は二つあります。 
 (1) 格差の連鎖を断つ ~子どもの格差問題~ 
 一つは「子どもの貧困」問題です。これはもう社会問題と言ってもよいくらいです。平成26(2014)年には「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が施行されました。教育には、資産格差、雇用格差、教育格差等から生じる貧困の連鎖を断ち、生まれ育った環境(経済的・文化的な環境)が、子どもの将来に与える影響を低く抑え、格差を低減させる役割が託されています。健全で、活力ある社会を、維持し、発展させるために教育に課せられている期待は大きいのです。

 最近の日本では、教育の分野でも自己選択と自己責任を重視する市場主義(自由尊重主義(リバタリアニズム)といい、その考えを信奉する人をリバタリアン(自由尊重主義者)という)が広がっています。確かに、社会の市場化と自由化は、全ての人に、その気さえあれば自力で未来を切り開く可能性を広げてくれます。しかし、その反面社会的弱者を確実につくりだします。現に「子どもの貧困」が多くの子どもから将来の自立の基盤を奪っています。子どもにとって、教育が自立の基盤であるのはいうまでもありませんが、教育を受ける機会は、子ども自身の意欲にもまして、親の所属階層と家庭環境に左右されるからです。そこに公助の体制が細り、共助もゆらいでくると、不平等が生じる責任はもっぱら個人に課せられていきます。結果として、教育を受ける機会は階層ごとに固定され、教育が階層を再生産していくこととなります。現在は、こうしたポスト福祉社会の仕組みが、そのまま人々に受け入れられてしまいかねない分岐点にあるのです。 

 教育の分野で自己選択と自己責任を重視する考えが広まることは、自己選択できなかった(具体的には、公立学校しか選ぶことができなかった)子どもたちへの視点が抜け落ちてしまうことになります。行き着く先は、私たちの社会が、親世代の階層よって固定化され、その結果として社会全体の活力が失われていくだけではなく、これまで私たちの社会の基本的な理念であった「教育の機会均等」が、実質的に空洞化されていくことになります。

 (2) 社会の変化に対応する資質や能力の育成 
 二つ目が、変化が激しく、予測の難しい社会で生き抜いていく資質や能力を身につけた「人財」を育成することです。21世紀に入り、内閣府の「人間力」(2003)、経済産業省の「社会人基礎力」(2006)、中央教育審議会の「社会を生き抜く力」(2013)、国立教育政策研究所の「21世紀型能力」(2013)と、様々な「○○力」が発表されています。これら「○○力」はすべて同じ危機意識から発しています。未知の問題に答えを見出す「思考力」、多様な価値観を持つ他者と協働して問題を解決する「実践力」を身につけた人財の育成です。そこで、今、学校では、「どのように学ぶか」という学びの質や深まりが問われています。

 こういう時代に求められる力とは、与えられた問題の解を、教えられた方法によって探し出す力では決してありません。与えられた問題の解を、自ら編み出した方法によって導き出す力でも不十分です。自ら自由に問題を設定し直して、新しい解を探っていく力。時には、所与の条件そのものを疑ってかかるような柔軟な考え方、問題の設定そのものを自ら設定し直す力まで求められます。言い換えれば、既存の社会や組織のシステムやフレーム、それ自体を変えていく力が求められるのです。その「力」の源こそが「教養」です。

 「教養」という概念の元は、ラテン語の“humanitas”(フマニタス)です。人間性を意味するhumanityの語源ですが、自由人である市民の「人としての嗜み」を意味しています。「教養」とは、英語で“liberal arts”といいます。“liberal”とは「自由な」という意味で、ここでいう自由とは、誰かの指示でもなく、誰からも束縛されず、自分で判断して行動できる人間としての「自立」をいい、“liberal arts”とは、そういう自立した人間に必要な知識・技術のことをいいます。また、私は、「教養」には二つの意味があると考えています。
 一つは、今、学んでいることは、その学問体系の中でどういうところに位置するのかがわかることです。当該の教科・科目の「学問」の中で、自分がいる場所を俯瞰する力(マッピング“mapping”力)です。今、学んでいる「自分の立ち位置」を知ることです。
 もう一つは、立ち居振る舞いの適切さです。英語では“decency”(礼儀正しさ)といいます。教養のある人とは、自分がどういう場面で、どういう行動・振る舞いをすることが求められているかがわかっている人のことです。洲本高校で、「洲高生らしく」というのは“decency”を身につけろということ、つまり「教養のある人になれ」ということです。

2 洲本高等学校のビジョン(全日制)
 まず、全日制についてです。この4月に入学してくる生徒は、神戸の三つの学区と淡路学区が一緒になった、新しい第1学区の複数志願選抜制度3年目の生徒です。第1学区の複数志願選抜制度は、神戸・芦屋・淡路地区の普通科・普通科単位制・総合学科計25の高等学校を一つにして合否と合格校を決定します。洲本高等学校は第二志望とする者が一番少なく、ほぼ全員が第一志望で合格するという数少ない学校の一つです。それだけ中学生と保護者の本校の教育力への期待が高いのです。入学予定者のほぼ全員が第一志望といっても、上位は神戸地区の進学校に匹敵する学力の生徒から下位の生徒まで、幅広い生徒が入学しています。私は、成績上位の生徒もさることながら、成績下位に位置する生徒の「学力の下支え」こそ大切であると考えています。教職員には、成績上位の生徒も、そうでない生徒も、全ての生徒が学ぶ喜び、学ぶ意欲を失わない指導をお願いています。全ての生徒が学ぶ意欲を失わない学習環境こそ、それぞれの持てる力を遺憾なく発揮できる原点です。まさに専門職としての教師の力量が問われるところです。教育は英語でeducation、これは持てる力を外へ引き出すことを意味します。

 今、学校の授業では、「何を」「どのように学ぶか」という学びの質や深まりが問われています。キーワードは「アクティブラーニング」です。主体的・自立的・協働的学習のことを意味します。その中でも「協働的である」ことが重視されます。「アクティブラーニング」については、本校ではすでにそれを実践してきています。本校での総合的な学習の時間「しんか」です。3年生の2単位、それぞれの進路、興味や関心に応じた14の講座で、個人やグループで課題を研究し、発表する授業が行われています。

 新しい年度も、「生徒の学ぶ意欲の向上」のために、(1)「生徒による授業評価週間(全・定)(6月、12月)」の全教科・科目で継続します。目標を肯定的評価90%として、各教科で改善点レポートと改善点を中心に研究授業の実施をお願いします。(2)ロングテスト(基礎・基本の完全習得)を実施し、それぞれの教科の基礎的基本的事項(知識)を徹底的に身につけるようにします。課題に正対し、論理的にものごとを考え、自分の異なる考え方を持った他者に対して説得力をもって話すためには、基礎的な知識は必要です。「知識の真空地帯」では独創性は生まれないからです。(3) 「週課題」として、一週間の各教科の課題をまとめて課します。一週間というまとまったスパンで、計画的に学習する習慣を身につけることを促すためです。(4)「しんか」(総合的な学習の時間)では、2年1単位、3年2単位で、課題を探究し、まとめ、発表する学習を実施します。(5)キャリア教育の一環として、1年で「職業探究ワークショップ」、2年で「学問探究ワークショップ」を実施し、外部講師を招き、現在の学びと自らの将来(キャリア)を意識させます。

3 洲本高等学校のビジョン(定時制)
 次ぎに、淡路島の唯一の定時制高校である洲本高校定時制に与えられたミッションです。本来、定時制は、「働く青少年に高校教育を保障するとともに、多くの有為な人材を育成する」という目的で設置されました。もちろん社会環境の変化の中で、現在では過年度卒業者や不登校経験生徒など多様な生徒を受け入れているのが現状です。しかし、設立以来変らないものがあります。それは、生徒たちに社会人として必要な基礎学力を定着させ、卒業と同時に社会で自立した人間を育てることを目指してきたことです。生徒たちに、社会で自立していく「力」をつけるという点は変ってはおらず、また変えてはならないものです。

 社会の変化に対応する、洲本高校定時制の取り組みのキーワードが「学び直し」です。洲本高校でいう「学び直し」には二つの意味があります。一つは、小学校・中学校で「学び残してきた部分」を、高校生としての発達段階をも配慮して、もう一度学ぶということです。あと一つは、何らかの理由で一度は高校を離れたけれども、やはり「高校で学びたい」「高校卒業の資格をとりたい」と考える人に、再び学ぶ機会を提供するという意味です。

 私は、生徒たちに、まず学校に来る、そして授業をしっかり受けて学ぶ、さらには学んだ「成果」をいかし自らの将来への道筋をつける、と機会ある毎に話し続けてきました。私は、高校で学ぶということは、三つの点で成長することだと思っています。
 一つは「知識が増える」ことです。英単語や数学の公式等これまで知らなかったことを知るようになります。新しい「知識」が増えるのです。二つ目は、部活動、ボランティアという体験活動によって「視野が広まる」ことです。体験をつうじて自分とは違う行動や考え方をする人に出会います。そうすることで「そういう考え方もあるんだ」とか「こういう方法もできるんだ」と自分自身の考え方が広まるでしょう。それが「視野が広まる」ということです。三つ目は「意識が深まる」ということ。インターシップ、ボランティア等で仕事を任されることによって「しっかりしなくては」と思い、「もっといい方法はないか」といろいろ工夫します。それが「意識が深まる」ということです。そうなれば、それは誰かに命令されてする「受け身の仕事」ではありません。「自分の仕事」です。仕事を任され「もっといい方法はないか」と思案するとき、役に立つのがこれまで学んだ「知識」であり、自分とは違う行動や考え方の人と出会うことによって身につけた「視野の広さ」です。その域に達すれば、三つの成長が統合されます。それが高校で学ぶということです。

4 学校予算
 学校予算については、県財政がまだまだ厳しい状況にありますが、予算・決算について教職員全体で内容を共有化し、生徒に関わる事項(旅費、課外活動委託料)を最優先事項として実施していきます。教職員には、不要不急の事柄についてはひきつづき節減・節約の協力をお願いしています。また、引き続き毎学期の始めに「危険箇所チェック」を行います。老朽化した部分も多い施設設備を定期的に丁寧にチェックすることで、生徒の安全・安心を確保していきます。結果、本校から財務課への補修等の要求をたくさん上げることとなりますが、それは施設・設備を大切に使っている本校の職員の姿勢を示すことになります。

 先ほども触れましたが、本校の教育は、明治30年の創立以来120年間にわたり、保護者や地域の方々の協力と支援のもとに教職員と生徒諸君が互いに切磋琢磨し、営々と営まれてきました。同窓会を中心に、今年の秋には、ドラゴンクエストの生みの親で、現在もゲームクリエーターとしてトップを走られている、本校24期の堀井 雄二さんを記念講演者に迎えての創立120周年記念式典はじめ様々な記念事業が準備されています。
 校長は数年、先生方も長くても十数年で変わります。しかし、学校は何十年と変わるものではありません。むしろ変わってはならないものです。洲本高校の特色とは、創立以来120年の長きにわたって私たちの先輩が大切にしてきたものを守り伝えていく教育活動にあります。そういう歴史と伝統を持つ学校で学んだという事実が持つ「効果」は数値では計ることができませんが、人が生きていく上で一番大切なものである「自信」と「誇り」となります。フランスの小説家サン=テグジュペリが、彼の代表作『星の王子様』の中で「大切なものは、目に見えない(what is essential is invisible to the eye.)」といったとおりです。

 平成29年度も、この4月に新たに着任した者も含め教職員が一丸となって、明治30年創立以来120年にわたって営まれてきた本校教育の殿堂に、さらなる「黄金の釘(こがねのくぎ)」を打ち加えていく決意でありますので、同窓会の皆さまには、今後とも一層のご支援を賜りますようお願い申し上げます。

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