7月、8月と暑い日が続きます。県立洲本高等学校の同窓会の皆様には、日頃から本校の教育活動にご理解とご協力を賜っておりますこと、厚く御礼申し上げます。
学校では、7月19日に終業式をおこない、翌日から夏季休業、いわゆる「夏休み」にはいっております。夏休みといっても、補習に、面談に、部活動にと多くの教職員、生徒が学校に来ています。8月には、1年生の総合探究類型は、理型と文型に分かれての神戸大学、甲南大学等の大学、神戸新聞社・JICAなどの企業等を訪問する研修、2年生の総合探究類型でも、同窓会東京支部の皆さまのご厚意により、東京大学、外務省、株式会社メディセオ等を見学する「未来探究東京ツアー」を実施しています。
8月の2日~4日の「第66回淡路島まつり」では、美術部が、洲本の民話に登場する「八狸(やだぬき)」をモチーフに、会場に設置される大看板(縦3.6㍍、横14.4㍍)を制作しました。また、今年も生徒会を中心に「洲本民謡おまあや復興会 洲本高校連」を結成し、島まつりに参加しました。ふるさと淡路、洲本の「文化」を受け継ぎ、保存していこうという取り組みに、洲高の生徒たちが参加し、重要な役割を果たしていることは頼もしい限りです。
それぞれの学校には、その学校が持つ「文化」というものがあります。ここでいう「文化」とは、モノとかカタチで表わされる具体物ではなく、人間としての「行動様式の総体」を意味します。卑近な例を挙げれば、朝起きれば、顔を洗い、歯を磨く。「おはようございます」と挨拶するといった類いの、その集団の中で大切にされ、受け継がれてきたものです。
同じものを見たときにどう感じるか。同じ場面に遭遇したときにどのように振る舞うか。同じ選択肢の岐路に立ったときにどちらを選ぶか。それぞれ人の感じ方、振る舞い方、選択の仕方は異なるでしょう。そういった判断の節目に立ったときに、ある特定の集団に属している人に、迷わずに、同じ感じ方や振る舞い方、選択の仕方といった共通の行動を起こさせてしまう「意識」の根底にあるものも「文化」ということができます。
入学式や創立記念式でも話しましたが、116年の歴史を誇る洲本高校は、兵庫県下にあまたある他の高校とは異なる一つの大きな特徴を持っています。それは「設立された」とか「創立された」というように「受け身形」で語ることのできない存在であるということです。洲本高校は、全日制も定時制も、洲本を中心とした淡路の人々の「学ぶこと」に対する真摯な欲望が、人々の「学校をつくろう」という大きな運動を呼び起こし、その成果が実を結んで、生まれた学校だからです。その「学ぶこと」を大切にしてきたのが「洲高の文化」です。
私の手元に佐滝剛弘さんの『国史大事典を予約した人々』(勁草書房2013)という本があります。「朝日新聞」書評欄(7月28日付)で紹介されていたので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。『国史大辞典』は、現在も、全15巻(17冊)で吉川弘文館から発行されている日本史の辞典です。『国史大事典を予約した人々』は、佐滝さんが群馬の旅館で偶然見つけた1908(明治41)年発行の『国史大辞典』を予約した人たち、約10,000人の名簿(「国史大辞典予約者芳名録」)をきっかけに、「教員の初任給」くらいする辞典を一体どんな人たちが予約したのか調べ始め、その顛末を記載した本です。名簿には、与謝野晶子、高村光雲、折口信夫らのほか、陸羯南(くが かつなん)、黒岩涙香などの言論人、金田一京助、新村出(しんむら いずる)などの著名な学者もいます。徳川、伊達、毛利といった旧大名、西園寺などの公家、琉球国王の子孫など錚々(そうそう)たる人が名を連ねています。
1908(明治41)年発行の『国史大辞典』を予約したのは個人だけではありません。全国の神社仏閣、企業、軍隊や学校も予約しています。その「芳名録」の津名郡の欄(当時は津名郡洲本町だった)に記載されている購入者10人の中に「洲本中学校」があるのです。さらに、本校の図書館には「淡路高等女学校」の所蔵印がある『国史大辞典』が残されています。これは、旧制の高等女学校が刊行直後に直接購入したことを表わす「貴重な記録」であるため、佐滝さんの著書の152頁に画像が掲載されています。もちろん、当該頁の本文には、「また、洲本高校では、洲本中学校から引き継いだ本だけでなく、芳名録に記載のない淡路高等女学校(1903年開校、戦後洲本中学校とともに新制洲本高校となる)の蔵書印のある本も所蔵されているなど、旧制中学校が購入した本にも、百年を超える星霜を耐えてきたものがある」(同書152頁)と「洲本高校(旧制洲本中学校)」の名前が出てきます。
洲本高校の歴史は、「学ぶこと」の大切さやすばらしさとはどういうものかということを、身をもって知っている者自身による、「学ぶこと」に対する押さえうることができない欲求・衝動で始まりました。それが、100年以上も前に、当時の「教員の初任給」ほどもする高価な辞典を買わしめたのです。洲本高校は、創立以来これまでの116年、そんな学校であり続けてきましたし、これからもそんな学校であり続けなければなりません(Always has been,and always will be.)。私たち世代に課せられた使命は、それを受け継ぎ、さらに次の世代にそれを受け渡していくことです。それが、歴史であり、伝統であり、それを守り、伝えていくことが、今を生きる私たちの「誇り」です。私はふるさと淡路の「島まつり」に、大看板の制作、「おまあや洲高連」の参加等で貢献している洲高生を「誇り」に思います。
同窓会の皆さまには、今後とも一層のご支援を賜りますようお願い申し上げます。