ご挨拶 学校長 越田 佳孝
2016年09月06日
同窓会の皆様には、日頃から本校の教育活動に、多大なるご理解とご支援を賜っておりますことに、厚く御礼申し上げます。
夏休み中の8月18日と19日の2日間、洲本高校全日制オープンハイスクールを実施しました。2日間で、中学生433名、保護者146名、中学校の先生22名の合計601名の方が事前に申し込みいただきました。当日、急遽参加したという人もいらっしゃいますから、実質もう少し多かったかも知れません。601名の参加者というのは、平成25年に夏休みの2日間で開催するようになってから最多の数です。それだけで私たちは責任の重さに身の引き締まる思いがいたします。
来年度の入学者選抜は、学区が拡大するとともに複数志願選抜制度が導入されて3回目の入試になります。この間、平成25年度からは、学区の拡大と複数志願選抜の導入によって、中学生とその保護者の間に広がる「不安」を解消するため、淡路島内3市での高等学校説明会の開催、夏休みのオープンハイスクールなどを行なってきました。当初の目的こそ学区の拡大と複数志願選抜の導入による中学生と保護者の「不安」を解消でしたが、本当の目的は高等学校、この洲本高等学校をもっとよく知ってもらうということです。
中学生や保護者、中学の先生の関心は、洲高に入学すれば「何を、どのように学び、その結果どういう力がつくのか?」にあります。「何を、どのように」というのが「体験授業」で、洲高オープンハイスクールの目玉です。2日間で8教科20の講座を用意しています。
「体験授業」の目的は、洲本高校での「授業」を中学生に体験してもらうことですが、本当の目的は「学ぶということはどういうことか」を自分の体で体験してもらうことです。中学生の感想にもありましたが、「学ぶこと」の目的の一つは「新しい知識を得ること」です。新しい知識が増える。それは成長です。二つ目が「考え方が広まる」ことです。洲高の授業では、知識だけではなく「考え方を学ぶこと」に力を入れています。「考え方を学ぶこと」により「こういう考え方もできるのか」と気づくこと。これも「成長」です。そして、一番の目的が「学ぶ意欲を高める」ことです。
子どもたちは「学び」への動機付けを、生まれながらに持っているわけではありません。彼らを「学び」に導くのは、大人の、そして一番身近にいる教師の責任です。「学ぶ」ということは「自分が何を知らないのかについて知る」ということです。子どもたちを「学び」に向かわせるには、「自分は何が知らないかを学ばせること」が一番です。しかも、その方法は、やさしく、丁寧に、です。そうすれば、苦手な「数学」も楽しみになります。わかるようになりたい「意欲」、わかるようになる「期待」が生まれるからです。
私は、毎年、「体験授業」を担当する先生に、「相手は中学生ですが、決してレベルを中学生向けにやさしくしたりしないで下さい」と言っています。その一方、やはり相手は中学生ですから、「丁寧に、しかもにこやかに、授業をしている先生自身が授業を楽しんでいることが伝わる授業をしてください」とお願いしています。
次に「洲高で学んだ結果、どういう力がつくか?」です。「結果」とは「進路実績」ということになるのでしょう。しかし、それに加え、入学した生徒が「どのように成長するのか?」も問われます。「洲高で学べばどのような生徒に成長するのか?」です。それには、今、洲高で学んでいる生徒を見てもらうのが一番です。
オープンハイスクールでは、学校の概要説明、授業への案内等も生徒会が中心となって行います。司会も生徒です。前日には部活の生徒たちが一生懸命掃除をしてくれました。中学生は、そういう生徒たちを見て、「あのようなお兄さん・お姉さんになりたい」と思い、「洲高に来ればなれるんだ」と思います。それは1年前、2年前、3年前の洲高生です。お世話をする生徒も、「来年には自分の後輩となるかもしれない中学生のために」ということで意識が深まります。これは1年前、2年前、3年前の洲高の先輩の姿でもあります。こうやって、歴史と伝統はつながっていくのです。
英国の精神科医D.レインは「ひとは自分の行動が意味するところを、他者に知らされることによって教えられる、言い換えると、自分の行動が他者に及ぼす効果によって、自分が何者であるかを教えられる」(『自己と他者』みすず書房)と言いました。心理学者エリクソンによれば、青年期は「私とは何か」「自分が何者であるのか」を問い、その答えを求めて思い悩む時期です。「私とは何か」とか「自分が何者であるのか」という問いは、レインも言ったように、他人の中に自分が意味ある場所を占めているかどうかにかかっています。そこに成長があるのです。2日間のオープンハイスクールで、「自分の後輩となるかもしれない中学生のために」と頑張ってくれた生徒たちの姿は、当日参加した中学生の胸にしっかり刻まれました。「あのようなお兄さん・お姉さんになりたい」、「洲高に来ればなれるんだ」というかたちでです。
今、高校は大きく変わりつつあります。保護者の皆さんが高校生であった20年近く前とは大きく様変わりしています。その一つが「授業」です。洲本高校では、全日制でも定時制でも、6月末と12月の一週間、「生徒による授業評価週間」を行なっています。一週間、すべての教科・科目で、生徒による「評価」を行い、その結果に対して、教師が改善方法をレポートで提出します。よりわかりやすい授業づくりのためです。「なぜ?」を「わかった!」に変える授業であり続けるためにでもあります。子どもたちの「なぜ?」という素朴な疑問を大切にして、それを「こんなもんなのだ」という妙な割り切りや、妥協でなく、純粋に「わかった!」に変えていく授業であり、教師であり続けるためにです。
フランスの社会学者P.ブルデューは、人が「豊かになる」には三つのことが必要だといいます。一つは、お金・資産に、道路や鉄道といったインフラストラクチャーも含めたもので、「経済資本」といいます。経済的に「豊か」になれます。二つ目が「文化資本」で、知識や教養、技能、趣味の良さ、振る舞いの適切さ、学歴などを含めたものです。精神な「豊かさ」を保障します。そして、三つ目が「人間関係」が生み出す力のことで「社会関係資本(social capital)」といいます。人と人との関係を「豊か」にします。
「社会関係資本」とは、人と人との間に存在する信頼、つきあいなどの人間関係のことを意味します。それらはなぜ資本なのかというと、私たちは見ず知らずの人に頼むより顔見知りに頼む方が、話がずっと上手くいくということを経験的に知っています。単に「顔見知り」であるということだけで、ものごとが格段に進むのです。そういう点から人間関係の「豊かさ」こそ、私たちの社会を豊かなものにする「資本」であると考えるのです。
現在は少子高齢化社会。淡路島はどんどん人口が減っています。大学進学等のため、若者が一旦は島外へ出て行くのは仕方がありません。しかし、どなたでも、いずれは地元に帰って来て欲しいと思っていらっしゃるでしょう。いずれ地元に帰った時にものをいうのが、神戸や明石ではない、「地元の高校」を卒業しているという事実です。「○○高校の卒業です」、「あなたも○○高校ですか」という何気ない会話が、人々をぐっと近づけ、信頼を一気に勝ち取る働きをします。「人脈の力」、「社会関係資本」です。
洲本高等学校に入学するということは、119年の洲本高等学校の歴史と伝統につながるということです。2日間のオープンハイスクールを体験することで、中学生ばかりではなく洲高の生徒たちも、2学期からの「学び」が深まり、成長することを期待しています。
同窓会の皆さまには、今後とも一層のご支援を賜りますようお願い申し上げます。